「日本は貧しくなった……」という声を聞いたことがありますか?
時たまtwitterでバズったツイートが流れてくる際、「日本は貧しくなった」で締められることがありますね。
例えばお菓子の分量が少なくなった時、
中国企業が日本の工場を造った時、
20年前の給与明細が出てきた時。
「日本は貧しくなった」というツイートがなされ、それに共感する人がお気に入りやリツイートボタンを押しています。
しかしそういったツイートが流れてきた際、私は少し不思議に思うことがありました。
「じゃあ日本より豊かな国ってどこに何カ国あるんだろう……?」と。
先に断っておきますが、私はそこまで政治志向が強い人間ではありません。
なので、これから『日本はこんなにすごい国なんだ!』といったことだけを述べる訳でもありませんし、『日本はダメだ!こんなダメな国にしたのは○○だ!』といったことを書く気もありません。
ただ、日本の現在の立ち位置や、これからどの様になっていくのか、といった点には興味があります。
なので、小さな事例だけではなくしっかりとした統計を元に、「日本は貧しくなったのか?」ということを知りたくなりました。
一言に「貧しくなった」といっても、いろいろな着眼点が存在します。
GDPや高齢化、給与水準や物価、自由度や心の豊かさ等、多くの要因が絡んだ問題です。
更には、「なぜ多くの人が”貧しくなった”と感じているのか」ということも考えなければいけません。
これらの問題を、いくつかの記事に分けて書いてみようと思います。
少し長くなりますが、お付き合いいただければ幸いです。
まずはこういった話題の際、よく挙げられる数字、「一人当たりGDP」についてです。
『日本は一人当たりGDPで台湾に抜かれ、更には韓国にも抜かれそうだ』
というツイートを見たことはありませんか?
実際、2022年12月に日経新聞で以下のような記事が書かれています。
1人当たりGDP、日台・日韓で逆転へ 日経センター予測
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM1021O0Q2A211C2000000/
日本経済研究センターは14日、個人の豊かさを示す日本の1人当たり名目国内総生産(GDP)が2022年に台湾、23年に韓国をそれぞれ下回るとの試算をまとめた。デジタル化で後じんを拝し労働生産性が伸び悩むことに加え、円安・ドル高でドル換算の金額が目減りするためだ。
この「一人当たりGDP」の話題は、テレビでも扱われ、多くの人が日本の衰退を嘆いていました。
※興味がある人は「一人当たりGDP」でツイート検索してみましょう。
……しかしながら、この「一人当たりGDP」というワードが流れてくる度、不思議に思うことがあるのです。
この多くの人が話題にしている「一人当たりGDP」、上位3カ国はどこか知っていますか?
『アメリカと中国とあとドイツかどこか!』と思われましたか?
もしくは『サウジアラビア・香港』といった国をあげる方もいるかもしれません。
惜しい!正解は『ルクセンブルク・アイルランド・スイス』です!
「さあ良いことを知りました。みんなでルクセンブルクを目指していい国にしましょう!」
と言われてもポカーンとしますよね。
人によっては、ルクセンブルクがどこにあるかも分からないかもしれません。
ルクセンブルクはドイツの西、ベルギーとフランス挟まれた小さな国です。
かつては鉄工業が盛んでしたが、現在は金融業に重きを置いています。
そんな小さな国が、なぜ『一人当たりGDP』で首位を取れたのでしょうか!
消費税を下げて経済を活性化させたのでしょうか、それとも子育て支援策を厚くして、子供を生みやすい環境を作ったのでしょうか!
……どちらも違います。
単純に金融業の儲けの割に、人口がとても少ないのです。
ルクセンブルクの人口は64万人。島根県より少ない人口です。ルクセンブルクより人口の少ない都道府県は鳥取県しかありません。
更に、欧州列強に囲まれた位置を活かし、法人税を下げることでタックスヘイブン(租税回避地)としてお金が落ちるようにしています。
Amazonの欧州本社や、スカイプの本社もルクセンブルクにあるのです。
彼らが欧州で稼いだ分の税金は、殆どをルクセンブルクで支払うことになりますし、
2019年には、「海外直接投資(FDI)」先として約4超ドルが資金移動されています。
島根県より少ない人口の国に、アメリカと並ぶ額の海外直接投資がされているのです……。恐ろしいですね。
しかし「同じことを日本がすればいい!」というのは無理な話です。
なぜなら、日本は人口が多すぎます。「一人当たりGDP上位の国」というのは、総じて人口の低い国です。
※アイルランド:37万人 スイス:870万人
「一人当たりGDP」が日本より上位の国で、「日本より人口が多い国」は何カ国あるかご存知ですか?アメリカ1国だけです。(7位)
国名 | 人口 | 一人当たりGDPランキング |
---|---|---|
中国 | 14.4億人 | 62位 |
インド | 14億人 | 145位 |
アメリカ | 3.3億人 | 7位 |
インドネシア | 2.7億人 | 117位 |
パキスタン | 2.2億人 | 158位 |
ナイジェリア | 2.1億人 | 150位 |
ブラジル | 2.1億人 | 84位 |
バングラディッシュ | 1.6億人 | 140位 |
ロシア | 1.4億人 | 65位 |
メキシコ | 1.3億人 | 72位 |
日本 | 1.2億人 | 27位 |
そもそも、この「一人当たりGDP」というのは、人口の少ない国が有利です。
人口の多い国は、どれだけ躍進したところでランキングを上げるのは難しいでしょう。
その証拠に、「飛ぶ鳥を落とす勢い」で経済成長している中国は、なんと62位となっています。
ギリシャ(46位)より下に位置している訳ですが、
この「一人当たりGDP」ランキングだけを見て「中国よりギリシャのほうがよくやっている!」と思う人はいるでしょうか?
この10年、2つの国がどのような経済状態にあったかを知っている人ならば、決してそのような結論はくださないでしょう。
とは言っても、極端なのはランキング上位の国だけであって、
「韓国と台湾に一人当たりGDPが抜かれた」というのは、やはり貧しくなったのではないか
そう思われるかもしれません。
しかしながら、日本の人口は1億257億人。一方で韓国の人口は5174万人と、半分以下の人口です。
台湾に至っては、2356万人。なんと日本の5分の1の人口です。
「一人当たりGDP」は韓国・台湾のほうが上げやすい状況にあります。
実際の豊かさではどうでしょうか。
昨年8月にダイヤモンドオンラインの記事で『日本人は韓国人より給料が38万円も安い!低賃金から抜け出せない残念な理由』という記事がありました。
この記事の中にある通り、2015年の時点で平均賃金(年間)は韓国に抜かれています。
※OECDの値によれば日本が39,711ドル(435万)、韓国が42,747ドル(469万) – 為替レートは2021年平均を使用
『やっぱり日本は韓国に抜かれたんだ!』と思うかもしれませんが、この数字を見るには少し注意しなければなりません。
『平均賃金』は、『年収の中央値』とは異なります。
グラフがいくつかありますが、下の方にはこのように書かれています。
*国民経済計算に基づく賃金総額を、平均雇用者数で割り、全雇用者の週平均労働時間に対するフルタイム雇用者1人あたりの週平均労働時間の倍率を掛けたもの。2016年を基準年とする購買力平価に基づくドルベースでの金額。
https://diamond.jp/articles/-/278127?page=2
「平均」なので、「中央値」とは異なります。
平均値では、極端に高い賃金を得ている富裕層によって、数字が左右されてしまうのです。
更にこの金額にはフルタイム従業員しか含まれていません。
たとえ就職率が低い数字で、正規雇用の割合が少ないとしても、高い数字を出すことが出来てしまいます。
実際、「収入の中央値」で見ると、また違った数字が見えてきます。
(世帯員一人あたりの収入の中央値。)
日本が14,255ドル(約188万円)に対して、韓国は12,507ドル(約164万円)となっており、まだ少し日本がリードしていますね。
若者の失業率で見ても、韓国は7.78%、日本は4.36%です。
ちなみに台湾は収入の中央値が13,605ドル、若者の失業率は12.27%。
これもまだ日本のほうが優れた数字です。
ただし、半導体等も目覚ましいのでそのうち追い越されるかもしれません。
もちろん、差が詰められているのは純然たる事実です。
一人当たりGDPも平均賃金も、「別の側面がある」ということを示しただけで、数値上抜かれているのは間違いありません。
ここで経済成長率を見てみましょう。
上記はG7における、GDPの成長率を表しています。
『G7の間で、日本だけが圧倒的に成長していない』という触れ込みで出される表ですね。
実際、日本は34年もの間、G7の間で「経済成長率」がトップになったことがありません。
なぜG7の中で、日本はこれだけ長いことGDPが成長していないのでしょうか。
以下の中から選んで見てください
もちろん理由は一つではないので、最大だと思う理由を選んでください。
選びましたか?
正解は……「3.単純に少子高齢化で労働人口が減っているから」でした。
嘘だと思われますか?
私も知ったときは驚愕したのですが、ここで驚きのグラフを出したいと思います。
赤の線は日本、青の線がアメリカです。
実線は「一人当たりGDP」を表しています。
そして破線の方は、「生産年齢人口一人あたりのGDP」です。
なんと絶好調に見えていたアメリカの上を行っているのが分かるでしょうか。
ただ、注意していただきたいのは、2000年を100として、それに対する増減を表しています。
なので、1995年を基準にすると以下のグラフになります。
相対的なグラフになりますので、1995年を基準にすると、2014年頃まではアメリカの下になりますね。
それでもここ数年は同じか上を行っています。
このグラフで何が言いたいかと言えば、「きちんと日本は成長している」ということです。
GDPの成長率最下位や、GDPの推移グラフ(下記)を見ると、まるで日本がものすごい間違いを犯しているような気持ちになるかと思いますが、GDPがいまいち伸びていかないのは労働人口の要因が多分に含まれており、労働人口一人当たりになおしてみれば、そうアメリカ・EUと変わらない成長を遂げているのです。
私はこれを見て「よかった…働きは無駄じゃなかったんだ」と思えましたが、私一人が言っても信憑性に欠けると思うので、権威ある方の意見も引用しようと思います。
ノーベル経済学賞を2008年に受賞した「ポール・グルーグマン氏」はニューヨーク・タイムズで以下のように語っています。
日本はこの四半世紀、成長が遅いように見えたが、その多くは人口動態に起因するものである。
https://archive.nytimes.com/krugman.blogs.nytimes.com/2015/10/20/rethinking-japan/?smid=tw-nytimeskrugman&smtyp=cur
2000頃から「生産年齢人口一人あたりの生産高」はアメリカを上回るようになり、
現時点で25年間の成長率はアメリカと同程度に見える。
(そして日本は欧州よりも優れている)
もちろん、「少子高齢化」自体もすごく深刻な問題ですし、
「経済成長の鈍化よりも、労働人口の現象のほうが早かっただけ」と穿った見方をすることもできます。
しかしながら、アメリカ・欧州・中国・その他の国を見ても、決して「日本が著しく落ちぶれている」訳ではないのです。
詳しくは他の記事で書いていこうと思いますが、
一つだけ、補足を兼ねて、先程引用した「GDP成長率」の最新バージョンを見ていただこうと思います。
国名 | GDP成長率 |
---|---|
日本 | +1.6% |
カナダ | +1.5% |
スペイン | +1.2% |
アメリカ | +1% |
フランス | +0.7% |
イギリス | +0.3% |
イタリア | -0.2% |
ドイツ | -0.3% |
なんとG7間のGDP成長率で、日本が首位に立ちました!
……といっても、日本が圧倒的に成長した、というよりは、ヨーロッパのエネルギー危機、アメリカの金融引き締め、世界的な食料の高騰等によって、通常運転の日本が1位に立った、という形です。
つまりは、世界各国も色々と問題を抱えており、対応に追われているのです。
そして「あの国は対応に成功した!」とか「この国は失敗した!」というよりも、「対応の方法が違うだけ」というケースが多々あります。
ぜひ、その点もフォーカスして取り上げたいと思いますので、次回をお楽しみに!